「trick or treat!」




 そう言って声をかけてきたのは、あいつだった。
 今日は10月31日――いわゆるハロウィンだ。この日は学年を巻き込んで仮装パーティを行っている。
 俺は海賊の格好を無理矢理させられた。皆は「似合う」とか言っているけど絶対嘘だと思う。ちなみに
あいつは魔女の格好をしている。こいつのことだから、きっと魔法が使える気がする。
「さぁ、早くお菓子を与えたまえ」
 次に彼女が発した言葉に吹き出しそうになる。だけどそうしたら怒られるので苦笑にとどめておく。
「全く、傲慢な魔女だこと」
「そうかしら? 私的には魔女は傲慢だと思っていたけど。それに、海賊だって傲慢じゃない」
「そうかもしれないな。でも、その言い方は嫌だよ」
 全く、本当に傲慢な魔女だ。そう思いながら、手に持っていたお菓子を渡そうとする。が、ポケットの
中に手を入れたままだったのでうっかり落としてしまった。早く渡さないとこいつ、絶対怒るっていうの
に。
「遅いよ」
「いや、あるはずだから。ちょい待て」
 少ししてイライラした声が聞こえてくる。早すぎるだろ。
「もー! 遅い遅い遅い! 時間切れでーす」
 そう言いながら、こいつは手で「×」印を作る。時間切れにしては早すぎるだろ。
「は? 意味わかんね……」
 怒ろうとするが、その前にシャッターの音がする。妙に響く。
 どうやら、写真を撮られたみたいだ。全く、困ったものだ。
「よし、仮装した写真はいただいたぞ。フフフ……」
 そう言うと、とても不気味な笑みを浮かべる。……恐ろしいオーラだ。
「笑顔が怖いから。とりあえず、お菓子やるからさっさとその笑みやめろ」
「そんな笑み、浮かべてたかしら」
「浮かべてたからな。無自覚にもほどがあるだろ」
 とりあえず、チョコを押し付ける。あいつがよく好んで食べるチョコだ。
「早く渡せばこんなことはなかったのに」
「別に渡したくなかった訳じゃないからな。それに、お前そのチョコ好きだろ。だから、それをちゃんと
あげたかった」
 そう言うと、彼女が固まった。目も見開かれている。その姿を見て、自分が若干とんでもないことを言
ったという自覚が芽生えてきた。
 あれ? これって……若干好きって公言した感じ?
 まぁ、いっか。誰も聞いていないし。そう思いながら、手を差し出す。咄嗟に彼女は手を取った。……
え? 取った? 一体どういうことだ。
 にしても、こいつの手、華奢だな。そして柔らかい。そう思いながら、小さく笑う。
「お前バカか……」
「じゃあ何よ」
「決まってんだろ」
 俺は、不敵な笑みを浮かべながらあいつにこう告げる。


「trick or treat?」


 あいつは「しまった!」という顔をしながらお菓子を探し出す。お菓子がないのかそれとも入れた場所
を忘れたのか、すごく慌てている。その光景を見て、くすくす笑う。
「お菓子はないのか? ないなら……」
 そう言いながら、携帯を取り出す。
「ちょ……待って……」
「待たない」
 写真を撮る音が聞こえる。携帯画面に写っていたあいつの顔はすごく間抜け面だった。
「最悪っ……」
「お前も同じことをしただろ」
「今すぐ消せバカ! 盗撮野郎!」
 叫びながら、キャンディーを投げつけられる。……割と痛い。受け取ったキャンディーを見るとレモン
味だった。俺の好み、知ってんじゃん。
「お前も消せよバーカ」
 そう言うと、キャンディーを口の中に入れる。そして他の友人元へお菓子をもらいに行くのだった。






矛盾するキャンディーの味
(消す訳ないだろ、バーカ)



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