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放課後、いつもの通り部活がある。……しかし、怠い。 はっきり言って、超面倒だ。先輩達がどうも好きになれないんだ。でも、行 かないとなー……。 そう考えていると、好きな歌手の最新シングルの曲がポケットから流れてき た。どうやらメールがきたみたい。携帯を開くと、中学時代の友人からメール がきていた。 ――放課後、会える? 差出人は小此木春子、通称おっこ。とにかく可愛い女の子。本当にね、理想 の女子像って感じがする子だった。ちなみに彼氏はいないけど好きな人はいる。 そんなおっことは、高校に入ってから連絡をとっていなかった。というか、 他の人達とも連絡をとれていない。それぐらい、高校生活っていうのは忙しい。 そう思うと、少しだけ寂しくなった。別に今いる高校のクラスメイトや部活 のメンバーが嫌いな訳じゃない。ううん、むしろ好きだ(部活は嫌だけど)。 でも、でもやっぱり、あの人達に敵う人達はいない。 思わず電話をしたくなった。あたしは連絡帳からおっこの携帯に電話をかけ る。迷惑じゃないだろか、という考えは一切なかった。 コールはいつも通り3回鳴って、それから繋がった。おっこは慎重派なのか、 連絡先をじっくり見てから電話を取る癖がある。 『もしもし、小此木です』 「おっこー? 久しぶりー。櫟でーす」 『あっ、まなみん? 久しぶりー!』 中学の時と変わらない明るい声で彼女は応じてくれた。おっこ、変わってな いなぁ。 「それでさ」 『あ、メールの話?』 さすがおっこ、察するのが早い。 『あのね、久しぶりにどっかでおしゃべりしたいなー、って。水泳部の皆と』 水泳部の皆。 その言葉に、あたしはいつもの面子を思い出した。紫苑にそうちゃんにひー くんにたくちゃん。それに後輩達。そして、色々と楽しい出来事ばっかり思い 出される。 あたしは今日の部活のことなんてすっぱりと忘れた。 「いいよー。他の皆もいるの?」 『うん。たっくんもあっくんも颯太くんも和さんもいる。あ、後ね、明ちゃん と奈津音と三浦くんもいる。ひろくんだけちょっと遅れてくるって』 「本当!? 分かった! 今すぐ行くね」 『分かったー。後でねー』 そう聞くだけですごくわくわくする。皆いるんじゃん。よし、今日はさっさ と帰ろう。 電話を切って、あたしはすぐ立ち上がる。荷物をまとめる。廊下に出ようと したところで声がかかった。 「万菜美ー。部活行くよね」 「あ、今日休む」 「えー。うっそー!」 部活仲間は大袈裟に、そして高い声で驚く。何でこんな声なのやら、と思っ て周りを見ると、その人の好きな人がいた。 「部長に怒られるよぉ」 あんただって休んでる癖に。というのは心の中でだけ言っておく。多分、好 きな人が近くにいるからいい子のフリでもしてるんだろう。 「用事あるから」 「えー。でもー」 「ってことでお疲れー」 あたしは騒ぐ部活仲間を放置して、教室を出て行った。 学校を出て暫くしてあたしはあることを思い出した。 ……待ち合わせ場所、聞いてないじゃん! あたしは思わず固まる。どんだけ無鉄砲で来たのよ。ここまでくると単なる アホみたいで逆に紫苑とかには尊敬されそう。いや、されたくないけど。誰が 尊敬されるものですか! というか、されたらおかしい。 もう一回おっこに電話をかけようと考えていると、携帯が鳴りだした。咄嗟 に電話に出る。 「もしもしっ」 『なーに慌ててんだよ』 「……紫苑」 あたしは小さく溜息をついた。おっこだと思ったのに。 「今どこ」 『途端に機嫌悪くなったなー』 紫苑はきっと電話越しで笑っているんだろうな。分かってしまうのが嫌だ。 「だから、今どこ」 『中学校の校門の前』 「何でそんなところいるの? 駅前の方が早いじゃん」 『里春が用事あって学校に残ってんだとよ。だから、学校で中学生組を捕まえ て、高校生組はそこにひっつこうっていう考え』 「……ふーん」 それでもあたしは不満だ。年上を敬う感情はないのか。 『手前ももうちょっと大人になれよ』 「心を読むんじゃありません」 どうやら完全に見抜かれていたみたい。まぁ、幼馴染だもんね。 そう思いながら、あたしは中学へ行くために電車に乗った。 電車に揺られて数十分。時間が本当にもどかしかったけど、ようやく中学校 に着いた。校舎の前に立って見て思うのは……懐かしい。本当に懐かしい。で も、ここであたしは1年前に勉強してたんだよね。そう思うと、少しびっくり かも。 「そういえば……」 皆はどこだろう。てっきり、校門の前に皆いると思っていたのに。というか、 普通はいるでしょ。 そんな感じで校門前でちょっと待っていると、二人の女の子がやってきた。 「あー! 万菜美さーん!」 「万菜美先輩っ!」 めーことなっつんだ、と認識した瞬間に腕をつかまれた。 「あの、どうしたの」 「とりあえず、来てくださいっ」 「そうです、今すぐ行くんです」 「いやいや、どこに」 「部室です」 「部室ないよね」 「正しくは、今日使っている教室です」 「うん、分かった。でも何で」 「来てみればわかりますよっ」 「その通りです!」 二人にあれよあれよという間に連れて行かれてしまった。 ……一体何が? 部室(という名の普通の教室)に入ると、突然、派手な音が耳に、ぴらぴら した紙が視界に入ってきた。 「えっ」 紙があたしの髪の上に乗ったところでクラッカーだと認識した。……ってあ れ? 何でクラッカー? というか、ここってどこ? ここは一般教室であっ て、別に、パーティ会場じゃないよね? と思っていると、おっこに抱き着か れた。 「まなみん、誕生日おめでとう!」 「……へ?」 あれ? 今日って……。 2月2日だ。……本当だ。あたしの誕生日だ。 「手前、自分の誕生日すら忘れたのか?」 「えっ、あれだけ人の誕生日をドッキリで祝おうとしていた櫟先輩が自分のを 忘れることってあるんですかぁ?」 「あるみたいだな。この顔を見てると」 紫苑はニヤニヤしながらあたしの顔を見ている。きっとあたしの顔はすっご く間抜け面なのだろう。 どうしよう、信じられない。全く自分の誕生日だなんて覚えていなかった。 だって、高校に入ってから誰にも誕生日だなんて教えていなかったもの。 「万菜美さん、本当に覚えてないんだ……」 「マジかよー」 「櫟さん、案外うっかりやだからね」 「琢馬、案外でもねーよ」 「そうかなー。根本的にはしっかりしてると思うけどな」 「……お前、よく褒められるな」 嘘、嘘でしょ。皆があたしの為にこんなに集まってくれて……。泣きそう。 「ちょ、まなみん。泣かないで」 「えっ」 あたしは自分の頬に手を当てる。すると、少しだけ濡れていた。あたしはど うやら泣いているみたい。 「大丈夫ですか!?」 「紫苑くん、泣かせたでしょ」 「泣かせてねーだろどう考えたって!」 「1番怪しいの紫苑じゃん」 「その通りだと思います!」 「手前らなんなんだ!」 違うよ。悲しくて泣いてるんじゃないよ。こうやって1年にたった1日しか来 ない大切な日に、すっごく、すっごくすっごくすっごく大切な人達に祝っても らうことが出来て嬉しいんだ。だから誤解しないで。そう言いたいのに、あた しは涙しか出なくて。言葉の代わりに涙をひたすら流すことしか出来なくて。 そんなあたしを見て、皆バカにされるかな、と思ったけど違った。おっこに 抱き着かれて、たくちゃんに頭を撫でられながら「おめでとう」って言われて、 紫苑には「また一歩ババアになったな」ってバカにされて(仕返しに脛を蹴っ てやった)、博也や颯太には「ようやく同い年になったな」と言われつつも「お めでとう」って言われて、なっつんとめーこには「また一歩大人の階段を昇り ましたね!」ってすごく謎のテンションで言われて、三浦くんには「これでま た二歳差かー」って言われたりして。すごく嬉しかった。 あたしはとりあえず涙をこらえて一言言った。だって、これは言わないと気 が済まないんだもの。 「ありがとう」 そして、これからも、よろしくね。 少女は、言葉の代わりに涙を流す (本当はね、「皆のこと、大好き」って言いたいんだ) (でもそれは涙が邪魔をするんだ) |